こんなに遅くまで起きていたのは久しぶりだわ。
ぼんやりと、公爵夫人は今日の夜会を思った。

いろいろな噂があったけれど、すべてがうまくいったようだ。
あの、薔薇のように美しい若い娘にも、これからまた新しい幸せが待っているのに違いない。

ふと、目の前にある一輪の薔薇に視線を向ける。
夜会で、それを捧げた男の顔が、胸の内を過る。

ヴィクトール・オーランジュとかいう、やけに横顔の美しい男。
気障な仕草で私に薔薇を差し出した、あの男。

こんな年寄りに。笑わせるったら。

だけど。ああ。この薔薇。

いい香りがするわ……。

独りで住むには広すぎる屋敷の自室で、公爵夫人は夜会の場で呟いたその言葉を、もう一度口にした。

薔薇の香りが運ぶ、甘い、遠い日の記憶。
老女が見た、美しいたまゆらの夢。

悪くない夜会だったわね。そう。悪くない夜だったわ。



先日、薔薇雨千秋楽アドリブの話を書きました。
http://juntan.diarynote.jp/200905290649388535/

オーランジュ@蘭とむちゃんが、公爵夫人@ゆっちゃんに一輪の薔薇を捧げたアドリブ場面なのですが。
下手前方列で観劇されていたという、ぶっさんさまからメールをいただきました。

薔薇を受け取った公爵夫人は、そのあと下手に下がったときに、花を見つめながら「いい香りがするわ……」と呟いたんですって。
ぶっさんさまのお席には、その声が届いたそうです。

それは公爵夫人としての芝居だったのか、それともゆっちゃんの本音だったのか。

ステキなお話を聞かせてくださったぶっさんさま、ありがとうございました。

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